Tuesday, January 12, 2010

20100113-天声人語 2009年9月2日(水)付

天声人語 2009年9月2日(水)付

1. ものを書くときに形容詞の扱いは難しい。うまく使えば引き立つが、下手だと言葉は浮いてしまう。文章は形容詞から腐ると言ったのは、たしか作家の開高健だった。飾り言葉は美味(おい)しいだけに朽ちるのも早い

2. 古い記事を読んでいたら、中曽根元首相が、当時新党さきがけの代表幹事だった鳩山由紀夫氏に注 文をつけていた。「政治は、美しいとか、キラリと光るとか、形容詞でやるのでなく、動詞でやるものだ」と。13年前、旧民主党を結成する直前のことである

3. 辛口の意見に、鳩山氏は「行動の前に哲学的な形容詞を大事にするべきではないか」と反論していた。政治スタイルや人生観の違いだろう。氏は今も、「愛のあふれる」といった、扱いの難しい言葉を好んで語る。哲学を重んじる姿勢は変わっていないようだ

4. 政治に力強い動詞は欠かせない。政策を進める意志である。動詞なき形容詞は、絵に描いた餅の飾りにすぎない。とはいえ形容詞を欠く動詞もまた、やせ細った政治だろう。持ち味の形容詞を腐らせない実行力が、いよいよ試される

5. 16日には特別国会が召集されて首相指名を受ける。就任会見や所信表明での一言一句が吟味され、そこから先は容赦のない現実が待つ。言葉で訴えたもろもろの実(じつ)が問われる。期待のすぐ横に失望の奈落が口を開けているのは、新政権の常である

6. 「言行一致の美名を得る為には、まず自己弁護に長じなければならぬ」と皮肉屋の芥川龍之介は言った。せっかくの形容詞が、そのために乱れ飛ぶようでは、国民は失望する。

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